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その問いに俺は少し戸惑った。正直、今は分からない。
何せ、妊娠を通り越していきなり出産だったから、心の準備も出来てない。
父親の実感だって、まだ無いに等しい。
でも……
「……休日を利用して帰って来る事があると思う。本当は一人前になるまでは帰るつもりなんてなかった。でも、詩子一人に子供を任せるのは、やっぱりいけない気がするんだ」
「あ、それは大丈夫よ。心配しないで」
「……は?」
あっさり、俺の意見を否定した詩子に驚いた。
てっきり帰って来てと言われるのかと思ったのに……
呆気に取られていると、詩子がクスクスと笑い出した。
「何だよ…」
「だって…別に、八住君が必要ないって言ってる訳じゃないのよ?本当は、とても必要よ。でもね、今の八住君は一人前になる事が最も重要で、一番必要な事よ。それを辞めてまで戻って来て欲しくないの」
重なっていた手が、いつの間に指を絡め握り合っている。
あいた片方の手を詩子の頬にやると、擦り寄せてきた。
「ちゃんとあそこで待ってる。子育てのプロがいつも傍にいるのよ、困る事なんてないわ。八住君は、自分の役目を全うして……ね?」
頬に触れていた手を頭の後ろに廻し、抱き寄せた。
こんなにも
愛しいと思ったことはない。
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