それから……

11/15

11873人が本棚に入れています
本棚に追加
/176ページ
その問いに俺は少し戸惑った。正直、今は分からない。 何せ、妊娠を通り越していきなり出産だったから、心の準備も出来てない。 父親の実感だって、まだ無いに等しい。 でも…… 「……休日を利用して帰って来る事があると思う。本当は一人前になるまでは帰るつもりなんてなかった。でも、詩子一人に子供を任せるのは、やっぱりいけない気がするんだ」 「あ、それは大丈夫よ。心配しないで」 「……は?」 あっさり、俺の意見を否定した詩子に驚いた。 てっきり帰って来てと言われるのかと思ったのに…… 呆気に取られていると、詩子がクスクスと笑い出した。 「何だよ…」 「だって…別に、八住君が必要ないって言ってる訳じゃないのよ?本当は、とても必要よ。でもね、今の八住君は一人前になる事が最も重要で、一番必要な事よ。それを辞めてまで戻って来て欲しくないの」 重なっていた手が、いつの間に指を絡め握り合っている。 あいた片方の手を詩子の頬にやると、擦り寄せてきた。 「ちゃんとあそこで待ってる。子育てのプロがいつも傍にいるのよ、困る事なんてないわ。八住君は、自分の役目を全うして……ね?」 頬に触れていた手を頭の後ろに廻し、抱き寄せた。 こんなにも 愛しいと思ったことはない。 .
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11873人が本棚に入れています
本棚に追加