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トイレに入ったものの、用を足さずに自分の情報を整理する。そうすると意外な程に会話をスムーズに進む事が多々ある。
八神 涼…それが俺の名前。どこにでもいる高校2年生と思っているが、回りがそれを許してくれない。そりゃ、父親が国税庁長官を務め、母親が数学の博士号を持つ家庭なんだから、エリート街道に乗っていると思われても仕方ない。それでも、親は親で、俺は俺だ。それなりにやりたい事もあるし、七光だけで将来を歩くつもりもない。
人によっては「勿体ない」とか「わがままだ」とか言うけれど、俺は決められた事しかしない事はそれこそ勿体ない事だと考えるタイプだ。守らなきゃいけないルールや、必要最低限のモラルさえ分かっていれば、そうそう人に迷惑はかからないだろう。そう考える事の何がいけないのだろうか。
廊下に出てもそんな事を考えながら歩く。
そうこうしている内に職員室に着いた。「失礼します」挨拶しながら中へ入っていく。
「来たか。実はな…」担任がおもむろに話し出す。
「落ち着いて聞くんだぞ。お前の親父さんが、行方不明になったらしい」
何を言っているのか理解出来なかった。
「え?だって父は今、中国の山村で農作物の実地調査をしているはずです。」
「そうなんだ。その中国で小規模な地盤沈下が発生して、何人かが生き埋めになったらしい。それで救出作業を進めたんだが、お前の親父さんだけが見付からなかったらしい」
更に何を言っているのか分からなくなる。こうして、俺の日常は崩れていく事になるんだ。
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