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「なんだ、姿が見えないぞ?」
気配は感じとれた。薄いけれど、一度感じればそれで充分。しかし、姿は一向に見えない。斬りつけてくる鋭い何かを避けるだけだ。
「影の派生、まさかそんなこと」
うろたえるカイルの様子も感じる。
「カイル、魔術を!」
あたしは耐えきれずに言う。魔術で姿を見えるように、とかしてくれないか? 攻撃しても、攻撃しても、素早すぎて剣の先が触れるので精一杯だ。しかしカイルが魔術を唱えることはない。何に混乱しているの? 早くしてくれないと……
「うわっ」
ついに魔物に攻撃される。太ももをスパッと切られた。鋭利な刃物でスッと切られたような感覚。
「くそ」
傷は浅いみたいだが、血が流れる。
――一人で走るなと言ったのはカイルのくせに。
カイルはあたしを一人で走らせる。
「カイル!」
振り返って呼ぶけれど、こちらを見てくれない。
「カイル、カイル!」
はっとカイルが顔をあげた。これで、やっと……と思ったのに。
「……なんで」
突然カイルの前に女の人が現れる。すらりとした長身の、美しい髪の毛を持つ……
「なんで」
「ああ、お会いしたかった」
王女様。
「なんでいるんだ!」
王女はくす、と叫ぶあたしを見て笑った。
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