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「さあカイル様。婚約の儀式をいたしましょう」
あたしが恐れていたこと。
「そうですね、ミント」
「国中の人々が祝福してくれます」
「カイル、待て、カイル!」
本当に婚約を破棄してよかったのか。確かに、城から連れ出すときに見たカイルの目は喜んでいなかった。だから、連れ出した。でも。それはあたしの勘違いじゃないか。
――カイルはあたしに好きと言ってくれるけれど、それをどこまで信用していいのかわからない。
それに、王女様は美しい。あたしよりカイルのことを知っている。王族とあたしみたいな田舎者となんて、比べるまでもない。
「カイル様」
「ミント」
抱きあう2人。ミントが顔をあげ、すっと目をつむる。ミントの頬を包み、カイルが唇を寄せる。
「嫌だぁっ!」
あたしは叫んで、剣をぶんぶん振った。目の前の光景をかき消すために。
――せっかく好きって言えたのに。
だったら、きちんとあたしを振ってから……行って! 迷惑だと言ってから王女様のもとへ行って!
「……ツル」
「うわああああ」
「ミ……ル、ミツル」
どこからか声がする。
「ミツル、今助けます!」
ばしゅっと大きな音がして、急に視界が開けた。
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