お月様とわたし

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全ての荷物が 運び出されて ガラーンとした4畳半の部屋は、 思ったよりも広く感じた。 床に残った家具のあとを 指でなぞりながら、 私はお月様に言ったの。 『ねえ。わたしは此処に住んでたんだよね。 数年間、色んなことがあったなぁ。 辛いことも、淋しいことも、楽しかったことも…、 いっぱいあったなぁ。ホントに!…』 半分、独り言のように呟いた。 いつもなら優しく答えてくれるお月様も 今夜は無言のまま 微かな光を灯していた。 なにもなくなった部屋の中で 静けさだけがひとり私を包んだ。 一滴の光が私の瞳に宿す。 突然、携帯が鳴る。 止まっていた時間が また動き出す。 『うん。わかった。今から出るとこだから…』 そういって細々とした荷物をまとめたボストンバックを手に持ち わたしは部屋の電気を消した。 月明かりが窓から入り寂しさが増す。 玄関を出た所でわたしは振り返って、 また、独り言のように 『サヨナラ…、』 そう言って、部屋を出た。 最後の戸締まり。 ガッチリという音が響く。 そして誰もいなくなった部屋 窓から見えるお月様は独り言のように 『おめでとう! キミの幸せを祈っているよ。 キミにはもう私は必要ないね。キミだけの太陽をみつけたのだから…』 そう言って、 星達が輝く夜空の中で 一際輝きを増して 彼女を優しく照らしていた。
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