第一章

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  ある日の早朝、長期休暇をとっていた野崎は阿蘇山の中腹から趣味のアマチュア無線を送信しようと準備をしていた。 乗りつけた白いワゴン車の荷台にはところせましと無線機材やバッテリーなどがつみこまれ、もはや趣味というより放送業者の中継車といった感がある。 起きたばかりの野崎は寝癖のついた髪が四方に乱れ、よれよれのジーンズと水色のシャツは当然、昨夜のままだった。 電気シェーバーをアゴに当てながらワゴンのバックドアを開け放つ。 朝もやに煙る阿蘇の麓(ふもと)見つめていると一羽のトンビが遥か遠方で旋回するのを見つけて眉をしかめる………普通トンビは、朝日も昇りきらぬ早朝に顔を出すものではない。 荷台の回転椅子の中であくびついでに大きく伸びをすると、昨日山口県は岩国でつかまえた高松からの電波を再度受信しようとしてマスターの電源をいれた途端………まるで、無線機が爆発したようなさわぎになってしまった。 はじめはサンドノイズかと思ったが、よく聞くと複数の言語がおりかさなっているようで、どうやらあらゆる国の言語がスピーカーから流れてくるらしい。 「こいつはいったい………どうなってる?」 野崎は面食らってチャンネルをぐるぐるまわしてみるが結果は同じで、どこのチャンネルでも話しをまともに聞けるところはなかった。 スピーカーもそのままに野崎は車外に出ると、夕べから出しっぱなしになっているキャンプセットのランタンで熱いモカをいれ、地平線にはりついた雲からゆっくりと顔をだす太陽をながめながらタバコに火を点ける。 機材が故障していないことは間違いない。その証拠にチャンネルは自由になるしバンドの切り替えにも支障はない、だとすると………?  
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