636人が本棚に入れています
本棚に追加
/266ページ
戸惑う父。
しかし今の現実は無視できない。
迷いはない。
あの男は母を傷つけた。
許せない。
許してはいけない。
憎しみが沸き上がる。
瞳が変化し、およそ瞳とはいえないほどまがまがしい模様へと変わる。
直後、鮮血が走る。
生々しく飛び散る血潮は噴水の水のように勢いよく父の体から吹き出し、側にいた母はモロにそれを浴びた。
父は頭と胴体の二つに別れ、仰向けに倒れ伏す。
一時呆然としていた母だが、ドアの外に自分がいて、自分の仕業であると気付き、血相を変えてドアに迫ってくる。
───怒られる
そう思い急いでドアから離れるが、母のほうが早かった。
怒られることを覚悟して目を力強くつぶった少女が目を開けた時、母の腕の中にいた。
母は涙で頬を濡らしながら、懇願するかのようにしきりに少女に謝っていた。
「ゴメンね……サラ……ゴメンね……」
何故謝られるのかわからない。
少女はわからないけれど、抱きしめられたのが少しだけ嬉しかった。
母親越しに死に絶えた父が見える。
いつの間にか涙を流している自分が、取り返しのつかない事をしてしまったということに気付いた。
───あぁ。自分は、父を殺したのだ
最初のコメントを投稿しよう!