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ガラガラガラガラガラガラ───
乾いた音が夜の病院に響き渡る。
何かを運ぶにしては、ひどく寂しくも慌ただしい。
深夜二時。ここアメリカ・カリフォルニア州の中央に佇むヴァゼロット病院に一人の妊婦が運び込まれた。
普段なら老人ばかりが通うような、ほんのり穏やかな雰囲気に包まれているこの病院も、この時ばかりは清閑な雰囲気を破らずにはいられないようだ。
ついさっき緊急で呼び出された医師や看護師達が、キャスター付きのベッドで運ばれる妊婦を取り囲むように移動している。
「急いで運んで!急いで!」
叫ぶ医師の一人に看護師が言う。
「先生!既に出血が始まっています!」
「他に異常は?」
「ありません!」
見ればわかる。妊婦の足の間から、おびただしい量の血液が白いシーツに染み込み、例えようのない異質な赤を彩っている。
別の医師が看護師に問う。
「カール先生はまだか!?」
最初の医師が声を張り上げたすぐ後に、また別の医師が答える。
「まもなく来られます」
「はい!どいてどいて!道をあけて!」
こんな深夜に何事かと起きて病室から出てきた患者。夜勤で遅くまで残っていた看護師。そして自動販売機に用があってきたのであろう付き添いの客。
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