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電話口の少女の声は、暗い地の底から聞こえてくるような、ぞっとした冷気を纏っており、必死になっているサラでなければ思わず受話器を投げ棄ててしまうほどだ。
サラにとって、聞き覚えのない少女の声に用はない。今はただ、母親の声が聞きたい。
しかしそう一心に願うサラの思いを跡形もなく消し去る一言が、彼女を待っていた。
『ママ?ママねぇ……死んじゃった』
───何を
何を言っているのだろう。この子は。
───嘘だ
ママはそこにいる。
ただこの子が受話器をとっているだけで、ママはまだ電話の側にいる。
自分と話したがっているはずだ。
サラは自分にそう言い聞かせ続ける。そうでもしなければ自制心を保てる自信がなかったのだ。
電話口の少女は嘘をついていて、嫌な予感がたまたま重なっただけ。
だから───嘘だ。
この子は嘘をついている。
サラは今すぐにでも、モリーが電話口に出てくれることを願い続けた。
早く。早く電話に出て。ママ、と。
やがて電話の向こう側から誰かが話そうと口を近付ける気配というか、音がした。
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