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「どーなってんだこの家族は……」
年輩の刑事は額に手を当てながら溜息混じりにそうこぼした。
年輩の刑事の髪の毛には所々白髪が混じっている。刑事に成り立ての頃、彼の髪の色は今よりも茶色に近く、若々しかった。
どちらかといえば、長く刑事という職に就いている彼すら経験したことがないほど、この家で起こった事件は特異中の特異と言えた。
後輩である刑事は捜査の時何でも触りたがる。年輩の刑事からすれば、子供が新しい玩具を触っているのと何ら差はないらしい。
現場を検証してあれこれと触っていた若い刑事が捜査の手を止め、ある一点を凝視する。
「それと、もう一つ気になるのが……何なんスかね?"あれ"」
「ああ。俺も気になるんだよな"あれ"」
老若の刑事が同時に同じ方向を見る。
人が死んでいるとは思えないほど整頓されたリビング。鑑識の話では、死亡した被害者の女性は掃除などの家事の後、一人でお茶を楽しんでいたらしく、テレビ近くのガラスのテーブルには、冬の気温に耐えきれず冷たくなってしまったティーカップが一つ。
二人の刑事の視線の先には、この家の住人の食事用のテーブルに乗っている、食い散らかされたケーキと水で濡れたパスタがあった。
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