プロローグ ~誕生~

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数人しかいない緊急搬出用の通路だが、それでもこの事態では邪魔以外の何物でもない。 深夜に不釣り合いな大声を出しながら、先頭にいた医師が何事かと傍観する見物人を追い払っていく。 緊急搬出用といえども廊下は長い。一秒一秒が、妊婦のあげるうめき声とともに事の重大さを物語っている。 伽藍とした手術室にの扉が開き、一同が入っていく。 室内の電気を点けても、深夜に近い手術室はそれでも薄暗かった。 ひんやりとした感覚が全員を包み込む。普段は手術等でしか開閉をしない手術室も、その独特の雰囲気だけはいつもと変わらない。 医師達は大急ぎで手術の用意を整え、周りの看護師に次々と必要な指示yを出していく。 その機械的にも見える的確で機敏な動きたるや、田舎の病院と侮ることはできない。加えて出産ともなれば、専門であるカール医師がいなくとも、今いるメンバーであれば実は十分に対処し得る。 妊婦は緊急用のベッドから手術台の上に移され、血に汚れたベッドとシーツは邪魔になる前に二人の看護師が手術室の外へと持ち出していった。 「よーし出てくるぞ……」 数々の経緯を乗り越え、ようやく出産まで間近となる。 手術室に響くのは妊婦の苦しみ力む声のみとなったが、それもそろそろフィナーレを迎えるようだ。 出て来る胎児は逆子だったが、現代の医術では何ら問題はない。胎児はゆっくりと、プロの手によって母体から無事取り出されていく。 だが不意に、胎児を取り出そうとした医師が異変に気付いた。 「こ、これは……!」
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