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通行人全員が目を疑った。
移動するトラックのコンテナに穴を開け、その穴をくぐり抜けるなどサーカスや映画の中でしかありえないことだ。
あまりのありえなさに、そのマジックステージから一つの影が目的地へと疾走していくことに誰も気付くことはなかった。
「ママァ!!」
勢いよく家の玄関のドアを開ける。
ドアを固定する金具が、全てイカれてしまうのではというほど力強くドアを開けたサラは、学校からずっと制服のままであるにも関わらず、外から玄関までを一直線に駆けた───途端、世界が終わった。
母親がいる/それはいい。
床に倒れている/疲れているのだろう。それもいい。
息をしていない───死んでいた
「ママ……」
頭の中が真っ白になる。何も考えられなくなる。
怖かった。
ただ怖かった。
どうしようもなく怖かった。
あまりの恐怖に体中の震えが止まらなかった。
見ただけでサラは、モリーが死んでいるものとわかった。
別に、サラが生きた人間と死体の識別に秀でていたわけではない。
ただ漠然と。それは八歳の子供が見ても判る「死」という概念だっただけ。
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