637人が本棚に入れています
本棚に追加
/266ページ
死んだOLの財布の中を見ると、千ドルも入っていた。これなら何とか生きていけるだろう。サラは何の迷いもなくごく自然に現金を抜きとった。
いけないことだというのはわかっていた。
でも、今のサラが生き延びるにはこうするしかなかったのだ。ところが、現実というものは実に残酷であることを、サラは身をもって体験した。
物乞い兼狩りを続けているうちに、ストックトン裏通りには誰も近づかないようになり、警察ですらやってくることなく時が過ぎ、やがて冬になり、ゴーストタウンとなった通りでサラは小さく震えていた。
寒い。自分はこんなところで死ぬのだろうかという思いが余計に不安を煽る。場所を変えればとも考えたがここの二の舞になることは明らか。打つ手無しだ。
何もかもが絶望という色に染まっていく中。彼は現れた。
白いナップザックに暖かそうなコート。下はジーンズといかにも庶民的な黒髪の二十代の男性。
手にガイドブックを持っているところをみると旅行者か。
〔久しぶりのカモが来た。これでしばらくは助かるわ〕
内心ほくそ笑みながら、サラは建物と建物の隙間から飛び出した。
「お金頂戴!」
拒めば、この男も殺すつもりだった。
最初のコメントを投稿しよう!