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しかしそんなサラを傍目に男は───
「いいよ」
驚きのあまり、サラの眼が点になった。
今まで通行人は皆、気まぐれや欝陶しさのあまり金銭を恵んでくれることもあったが、そのほとんどが汚い物を見るような目をするか、軽蔑の眼差しを向けるかであった。
しかしこの男は嫌がるどころか笑顔さえ見せ、あっさりと財布の口を開いている。
こんなにあっさりと孤児の物乞いを承諾するなんて、よほどのお人好しかバカか、そうでなければ変人。ちょー変人である。
「いくらくらい?」
「あ……えと……百くらい」
ナップザックから財布を取り出し、恵んでくれた男の行動に対し、感謝と恥じらいを込めてお礼を言う。
「……ありがとう」
何がありがとうなのか、サラ自身よくわからなかったが、少なくとも男の変人ぶり───もとい親切心は、サラが今まで味わったてきた暖房など比べ物にならないくらい温かく、先程までの寒さなど忘却の彼方へと消えていった。
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