プロローグ ~誕生~

4/8

636人が本棚に入れています
本棚に追加
/266ページ
「何てことだ……!」 「検査の時レントゲンには映ってなかったはずだ!!」 他の医師達も、周囲の異変に感づき始め、その原因が何であるかを即座に感知した。 出産の場に居合わせた全員の顔が蒼白となり、汗が浮かぶ。 医師とは医療の関係においても、現場では常に冷静を保っていなければならないことが暗黙の了解である。冷静でなければ物事───例えば患者の体調に異変が顕れたり、事故に遭った患者にどう処置を施すか、という適切な判断を常時求められるからだ。 しかし今そんな選りすぐりの医師達が、揃いも揃って驚嘆することしかできないでいるほど重大な出来事が、この手術室で起こっている。 「機械の故障か何かろう。と、とにかく今は、出産させてあげよう……よっ……と」 目先の問題に囚われず、落ち着いた医師が胎児を完全に取り出す。医師達が遭遇した問題は例を見ない不可思議な出来事に違いはなかったが、それでも出産という感動的な場面においては重要視されるものでもない。 へその緒で母体と結ばれた可愛らしい胎児が姿を見せる。 この世に生まれたばかりの命が今、開花した───はずだった。 「おい、泣かないぞ?」
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

636人が本棚に入れています
本棚に追加