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思い返すのは、先程会った男の残像。
ふっさふさの柔らかそうな黒髪に、どこにでもいそうな普通の爽やかお兄さん。
頭に降り積もっていた粉雪が、黒い髪と相対しているというよりは、単に間抜けている。
けれどもその艶やかさは、白い光を反射していて例えようもなく綺麗だった。
旅行者である彼は、観光目的でアメリカに来たのだろうか。見たところ東洋人っぽいが、英語でのコミュニケーションは普通にできていた。
それにしたって、観光なら観光でこんな場所に来るなんて、迷子にでもなったのだろうか。だとしたらお人好しだけでなくちょーおバカさんだ。
おかしな出会いに自然とこぼれる笑みを顔いっぱいに浮かべながら、サラがそんなことを考えていると───
「はい、あったかいよ」
不思議なことに、頭の上からさっきの男の声が降ってくる。同時に、起き上がったサラの目の前に缶コーヒーが差し出された。
サラが顔を上げると、そこには出会った時と変わらず、人畜無害の象徴とも言えるような笑顔を携えて、さっきの男がサラの顔を覗き込むように立っていた。
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