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缶コーヒーを反射的に受け取りながら、サラは男に問い掛ける。
「どうして……?」
「あ、いや……こんな寒空の下で、女の子が一人震えているのを見過ごすっていうのは、何ていうか……目覚め悪いから……」
自分の分の缶コーヒーのフタを開けながら、男は照れ臭そうに答えた。
どこまでお人好しなんだこの人は……とサラがア然としていると───
「ホラホラ、そんな格好してないで、あったかくして」
言って男は、自ら着ていたコートをサラの背中越しに羽織らせる。羽織った途端、ふわりと冬のにおいがした。
「じゃ俺もう行くから」
そう言って男は今度こそ去って行く。男がくれた缶コーヒーとコートは本当に暖かく、男の優しさをそのまま表したようで。その優しさに触れたようで。サラの眼からは自然と涙が出てきていた。
〔このままだと彼は行ってしまう……そしたらもう二度と会えないかもしれない〕
焦る心が警告の鐘を鳴らす。本当にそれでいいのか?今ならまだ間に合う、と。
〔呼び止めよう、彼を!〕
そう決意したが早いか、サラは猫よりも素早く動き、建物の間から飛び出した。
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