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呼び止めた声は、一つではなかった。
去ったと思われた男は、その実どこにも行っておらず、建物の隙間から飛び出したサラとばったりと二回目の再会を果たした。
「え?何?」
驚きに大きな眼をパチクリさせ、サラは男を見上げる。
男は、とても照れ臭そうにしどろもどろな様子。
「あ、いや、あの……もし行くあてがないんだったら、ウチに住み込む、なんてのはどうかな~なんて……ハハ、やっぱ今のナシってこと───」
「私も!」
「え?」
「私も今、住み込んでいいか聞こうとした……」
男は意外なものを見たかのように、その表情に困惑の色を見せ、頬も微妙に紅色に染めて何とか言葉を紡ぐ。
「え?あ……ホントに!?いや、君が嫌じゃなければ……」
「嫌じゃない!」
間髪入れずのサラの即答。そのハキハキとした姿勢に圧倒されたのか、男は不安が拭い取れたように微笑みながら言った。
「え……じゃあ……一緒に行く?」
ちらほらと雪が舞い降りる。寒い気温を象徴する雪はしかし、今のサラにとって気にならないくらいの、寧ろこれから始まる何かを祝う紙吹雪のように見えた。
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