637人が本棚に入れています
本棚に追加
/266ページ
やはりにわかには信じられないか。特にこの眼は。
人に自分の過去を解ってもらうには、何か明白な証拠が必要だ。しかし孤児であったサラに掲示できる証拠などあるはずもなく、証明できることといえばそう。何か物を壊して見せることくらいであった。
サラは目の前のテーブルの上にあるコップを見つけ、ハリーによく見えるように手に取って見せる。
それは何の変哲もないただのガラスのコップで、部屋に着いたハリーがせめてもの飾り付けにと置いただけの市販のコップである。それをサラは小さな五本の指で掴む。
「?」
サラの行動にキョトンとするハリー。
対してこれから急激に変わるであろう彼の表情と、自分への認識。それら一切を覚悟して、サラは証拠を実際に見せることを決意した。
「見てて」
サラはコップを突き出し、ハリーにもよく見えるように掲げる。
次の瞬間。息つく暇もなく、またおそらくはマジックのタネを仕込む時間すらない一瞬の間に、サラの手の中にあったコップは見事木っ端微塵に割れた。
何の化学・物理的接触も受けていないガラスのコップは砕け散り、カチャンカチャンと淋しげな音をたてながらサラの手から床へと落下する。
「あ…………ぁ……」
最初のコメントを投稿しよう!