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ハリーの顔がみるみる青ざめていく。それもそのはずだ。目の前で、ただ持っていただけのコップが何の前触れもなく突然割れたのだから。
言葉にならない驚きを隠せず、金魚のように口をぱくぱくさせているハリーを無視してサラは話を続ける。
「どう?わかった?これが私の眼の力……。憎むものが人だろうと物だろうと関係ないわ」
これでハリーもサラを化け物扱いすることだろう。
いくら信じると言っても、ハリーも所詮人間。信じ難いことや、自分では認識できないものは極端に拒絶する。
でもいいのだ。始めから覚悟していた。
たとえ偽りの言葉でも、あの優しさは本物だったのだから。
さぁ、次にハリーが口を開けた時は、間違いなく「出て行け化け物!」と───。
「あ……あぁ……俺のコップ……」
「へ?」
ハリーの口から出たのは侮蔑でも何でもなく、とてつもないほど意外な言葉だった。
見れば、サラが眼の力で割ったコップは、越してきたばかりのハリーが買ってきて置いておいた、一つしかないハリーの愛用のコップなのだ。
自分から言い出した手前、サラを責めることもなく、がっくりと床にうなだれたハリーは、ただただ数分前の自分の言を後悔するのだった。
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