プロローグ ~誕生~

5/8

636人が本棚に入れています
本棚に追加
/266ページ
「え?」 ようやくの出産。今すぐにでも母親となった女性に報告をしなければならないのだが、先程の驚愕に続いて今度は、複数の医師の間に緊張が走った。それに気づかない医師に向かって、何がこの緊張を生み出している原因なのか、出産を成功させた医師の一人が説明を始める。 「普通生まれてすぐの新生児は泣くだろ?それがこの子は……」 通常生まれたての新生児は初めて泣くことで母体の中ではできなかった肺呼吸を始める。 その最初の一泣きがなかった場合、その新生児は最悪死亡している可能性も─── その時、微かな産声が手術室内に響いた。 その産声はまるで天使の囁き。 この世に生を受けた印として胎児が発する、酸素と生まれた自由を求める感動の第一声だった。 「良かった……やりましたね!主任!」 女性医師の一人が胎児を取り出した医師に歓喜の声で話しかける。 同じ女性だからか、あるいは彼女は出産をしたことがないのか。それでも彼女は今、こうして何度目かの新たな命の誕生した瞬間に立ち会えたことを、心から喜んでいる。 「……主任……?」 妙な違和感がその女性医師に小さな異変を教える。
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

636人が本棚に入れています
本棚に追加