プロローグ ~誕生~

6/8

636人が本棚に入れています
本棚に追加
/266ページ
主任と呼ばれた医師は答えない。代わりにプシッというプルタブを開けたような音がした。 そのすぐ後。突然、胎児の泣き声がより拍車をかけた大声になった。 それに応えるかのように胎児を両手に持っていた主任の体が痙攣したように震えだす。 びくんびくん、と。まるでまな板の上の魚のように。苦しそうに見えるその姿は、言葉では言い表すことができないほど異様な震え方だった。 やがて痙攣ですらない、小刻みな震えが顕れ、まるで踊っているかのとうに主任の全身をブルブルと振動させる。 縦に。横に。 いつの間にか主任の全身は、体中の骨が失くなったのではないかと思えるくらい、より苛烈に、激しく振動していた。 あわや狂いだしたのかと主任を除く全員が思った次の瞬間、女性医師は信じ難い光景を目の当たりにする。 見れば、主任の顔は血まみれだった。頭から、目から、耳から鼻から口から血が血がちがちがちがチガチガチガチガ……………………。 不規則にガチガチと鳴り響く主任の上下の歯。かつてない振動と、恐ろしい形相になっていく主任の顔。 産声に負けないほどの悲鳴があがる。 赤ん坊が主任の両手から手術台の上に落とされる。
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

636人が本棚に入れています
本棚に追加