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「無理に忘れろとは言わない。君は、まだ受け入れる準備ができていないんだ。ゆっくり……受け入れればいい」
サラは、唐突に理解した。
今の自分に必要な場所は、雨風を凌げる建物などではない。ましてや食べ物に困らない家でもない。
この、優しい腕の中なのだと。
「うん……」
自然、笑顔になるサラは、同時に心までホカホカになっていくのを感じ取る。しかし、それを理解するだけの言葉を、サラは知らないでいた。
思いを重ねるように、胸の前で組まれた大きくあたたかい手に触れた。
ふと、サラはハリーに唐突に浮かんだ疑問を口にする。
「ねぇ、ハリー。あの時どうして私を助けてくれたの?」
「ん?そうだな……」
ハリーは何を思ったのか、振り向いたサラの目を見つめ、じっと考え事でもするように真剣な表情になった。
何事かとサラは緊張する。思えば男の、それも大人の人にこんなにも近くで見つめられたことなど、サラの人生経験の中では一度もない。
「天使を、見つけたからさ」
かと思えばそう言って、ハリーはサラの前髪を手で分け、おでこにキスをする。
冗談交じりに贈られたキスは、サラの額に僅かながらの感触を残した。
「───クサい」
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