636人が本棚に入れています
本棚に追加
/266ページ
そして女性医師は気付く。自分の顔からも血が流れている。
赤ん坊の声のみが室内中に響き渡る。周りの医師達も皆同じような状態だった。
不可思議なことに照明が落ちる。いや落ちるというよりは、ぱりんと割れたのだ。
手術室は突如暗闇に飲み込まれる。その中で、手術台の上に乗せてある妊婦と新生児以外の人間が、壊れた人形のように踊る。
がくがくがくがく
ぶるぶるぶるぶる───
止まらない止められない。
医師達に既に自我などない。彼らハここ、こわ壊れているノだカラ。
人形達は踊る。手術室一帯に自らの血を撒き散らしながら。滑稽に。観客に笑ってもらうために頑張るピエロのように。
そうした人形達は、自我など無い状態から理解できる筈のないものを感じ取っていた。
「死」である。
おかしな話。
もはや五感も意識も記憶も無くした哀れで憐れな人形達。なのに空っぽ同然の彼らは同時に同一の同名のものを認識している。
───新生児の声は止まない。
まるでこの人形踊る喜劇のBGM。選曲にしてはちょっと控えめな、それでいて命溢れ出す壮大なヴォリュームだ。
最初のコメントを投稿しよう!