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痛みに涙が滲み出てくる。
今まで自分が"眼"にかけて来た人達は、こんなにも痛かったのか。
初めて味わう絶望的な死の恐怖。その恐怖に抗うだけの術もなく、サラはただ死に神(ウィラ)が近付いてくるのを待っているしかない。
〔死にたく、ない───〕
嫌だ。絶対に死ぬのは嫌だ。
何より仇も討てずに自分勝手に死ぬのがたまらなく嫌だった。
ウィラという死神が更に近付いてくる。
───嫌だ。死ぬのは嫌だ。あんなにも残酷で、無価値な死など受け入れたくなかった。
しかし死神は、更なる死を呼び寄せる。
ウィラは自分の胸部の服を眼で破き、外気に晒された自らの胸に手をあてる。
サラの双子の姉ともあれば当然その容姿は美しく、髪から肌に至る全てが芸術といえた。
ところが、ウィラが手を当てた胸には、深々と、そして決して癒されることのないであろう醜く大きな×印の傷痕があった。
明らかに自然的や事故にではない、"眼"による傷痕だった。
ウィラの足が止まる。
サラの体は依然動かず、激痛が憎しみを邪魔する。
冷ややかな、それでいて多少熱の篭った口調で、ウィラが胸に手をあてたままサラに話し掛ける。
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