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俺の全ての感覚は、どんどん麻痺していった。
「刹那。これ好きでしょう? たくさん作ったから……」
皿の上のゼリーをスプーンでつつく。
昔から病気の時は、よくこれを母さんが作ってくれて、緑にぃと一緒に食べたっけ。
俺はブドウの優しい味がするゼリーが大好きで、緑にぃはオレンジが好きだった。
オレンジのゼリーを一口食べ、俺はスプーンを置いた。
「ごめん……もういらない」
気づいた時には、何を食べても砂かゴムでも噛んでいるみたいで、味なんか全然分からなかった。
「そう。ねぇ、刹那。この部屋暑くない?」
「別に……」
真夏の日差しをカーテンで遮り、エアコンさえつけない部屋は、薄暗く空気が澱んでいる。
それでも別に、暑さを感じなかった。
「少しだけ、空気を入れ替えさせて……いいわね?」
小さく頷く俺を見て、母さんはカーテンを閉めたまま、窓を開ける。
風にはためくカーテンの隙間から、青々と生い茂った木々が見える。
だけど俺の目に映る世界は、あの日から全て色褪せ曇ったままだ。
生きている感覚が、少しずつ遠ざかっていく……
果物籠の中で忘れ去られたリンゴのように、俺は内側から腐り始めていたのかもしれない。
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