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崖っぷちへ一歩踏み出し、あの日からずっと、片時も離さずつけているピアスを撫でる。
手紙が届いてから一年。ずいぶん待たせてしまった。
でも、空港から電話して来ればいいのに、格好つけた緑にぃも悪い。だからこれはおあいこだよな。
『愛してるよ。刹那』
強い突風が吹きつけ、俺の手から緑にぃの手紙をさらって行く。
いつも優しく甘く囁いてくれた、緑にぃの声が鮮やかに耳に蘇る。
こぼれ落ちた涙を拭うように、大きな手が頬を撫でる。
ベッドで抱き締め合う度に嗅いだ、甘酸っぱい汗とコロンの混じった香りが鼻を掠める。
いつも緑にぃを包んでいた身体の中心が、ひくりと疼く。
全身で俺は緑にぃを感じていた。
ずっとずっと、もう一度感じたいと願っていた緑にぃの吐息が、匂いが――全てが、俺を包みこんでいる。抱き締めている。
緑にぃはここで俺を待っていたのだ。ずっと……
「俺も愛してる。緑音」
ゆっくりと甘く、今まで言えなかった言葉を囁くと、木々がざわざわと梢を揺らした。
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