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黒と白の幕が、生ぬるい風にはたはたとひるがえる。
真夏の日差しが、じりじりと首筋を灼く。
アスファルトに落ちた雫が、あっという間に乾いてゆく。
斎場の祭壇に溢れ返る菊やカサブランカ。だけど緑にぃが好きな、ストロベリーフィールドや黄色いバラがない。
同じ黄色ならバラだっていいのに。なんで誰も気づかないんだ?
緑にぃには、菊なんて似合わない。全然、似合わない。
握り締めた拳が、ぶるぶる震えた。
たった数日でげっそりとやつれ、今にも倒れてしまいそうな伯母さんを、母さんが励ますことも出来ずに、そっと抱き締めている。
親父は伯父さんと二人、訪れた参列者に頭を下げ、言葉少なに相手をしていた。
その陰鬱なのに、生命感に満ちたざわめき。やまない蝉の大合唱。坊主の読経のうねり。
何もかもが、うざい。疎ましくて堪らない。
ばらばらになり墜落した機体と共に、海の底から引き揚げられた緑にぃは、知る者のいない異国で、地元の人々の手で早々に荼毘にふされた。
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