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「君の部屋はここだよ。もう覚えたよね」
セシルは私が目覚めた時に使っていた部屋の前まで来ると、扉を開けて私を中に誘導した。
部屋は窓から薄らと月明かりが入るくらいで暗かった。
「じゃあね、勝手に休んでて。起きてお腹が空いたらまたさっきのところに来ればいいから」
そう言って彼はすぐに部屋を出ようとした。
(何だか……)
心なしかセシルの態度が兄たちといる時に比べて冷たい様に感じる。
そんなことを考えると、つと、セシルが部屋を出ようとした足を止め、振り返った。
「――ああ、そうそう言い忘れるところだった」
冷めた声に顔を見上げるとセシルは冷たい笑みを浮かべている。
ゾクリ、と背中を冷たい汗が流れた気がした。
心のどこかで危機感を感じているのか、無意識に逃げる様に足が一歩下がる。
それに気付いてか、セシルは逃がさないという様に私が下がったよりも一歩分深く近付く。
「そんな、怯えなくていいよ。別に何もしないから」
(嘘――……)
そう言い返そうと思っても声は出ない。
――いつの間にか壁際に追い詰められていた。
「―フフッ…何もしないって言ってるのに。ただね、ちょっと忠告」
セシル嘲笑う様に言いながら耳元に口を近付け、普段より一層低めの声で囁いた。
「僕たちの居場所をあのバカな村人たちに教えたり、僕たちを殺そうなんて頭の悪いことを考えたりしちゃダメだよ。
もしそんなことをしたら……どうなるかは想像つくよね」
「……――っ!?」
そんなことしないのに。
だけどその言葉は声が出せたとしてもすぐには言えなかっただろう。
それほどに、近くにあったセシルの赤い瞳は冷たく、反論も塞ぐほどに怖かった。
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