序章――闇の人――

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 街は晩秋の静寂に包まれていた。もともとたいした特徴もなく、普段から閑静な街ではあったが今夜は一層静まりかえっている。  その路地を薄暗い街灯が照らす。月を失って暗さをました夜を照らすには、その灯りだけでは心細い。  等間隔に並んだ街灯の灯りの中を、ひとり歩く影があった。  星も月もない夜空をたたえたような黒い髪と瞳を持つ、長身の男だ。黒いコートを纏い、まるで闇が人の形を模して這い出してきたような不吉な姿。  うつむいた顔は整っていて穏やかだが、痩せているせいか、血の気がなく生気を欠いていた。  少し見れば中年の紳士とも言える容姿をしながら、男は人ではない者のように闇を彷徨う。 「…終わりに……」  その言葉は何に対して発せられたのか、低く穏やかだが、どこか絶望的な余韻を含んでいた。  男の言葉に応えるものはなく、男も歩調を変えることなく、闇に溶けてしまいそうな危うさのまま、夜を歩いて行った。
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