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そんな不毛な会話でも時間は経過して、懐かしい家が顔を出す。
「……変わってないな」
春菜の家はまるで記憶をそのまま移し換えたかのように変化がない。
隣の神裂家も同様だ。
二つとも二階建て、庭があるのは土地代を考えると相当なことだ。
「明日はもう登校しないといけないんだよね。場所わかんないよね?」
春菜の問いに神裂は頷く。
「一緒に行け、ってお母さんから言われたんだけど……」
「頼む」
「分かった」
じゃあね、と春菜が早足で家に入ろうとする。
「春菜」
それを神裂が引き止めた。
「何?」
一瞬だけビクッとした彼女がこっちを振り向く。
「また明日」
「……うん」
何か言いたそうな春菜は結局何も言わずに明りの点いていない自分の家に消えた。
(おじさんとおばさんは海外で仕事だったか)
神裂も三日前にもらった鍵を鍵穴に刺して扉を開ける。
春菜の両親が十年無人だった家を綺麗にしてくれたらしく、ついさっきまで使われていたかのようになっている。
神裂はまず、二階に上がって自身の部屋だったところへ向かってみた。位置はかわっていない。
部屋のドアを開ける。
覗いた限り、段ボールまみれであること以外の変化はベッドのサイズが大きくなっているくらいだろう。
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