第Ⅰ話

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「……イズ」  呼ばれたけど、すぐ横にいるひーちゃんの顔が、見られない。 「泣くなや、イズ」  言われて、ドアから抜いた手をそのまま目元に持っていくと、濡れる感触がした。目を閉じると、涙が一筋、頬を伝うのを感じた。そしてもう一度瞬きしたら、滴が落ちた。  でもそれは床に届く前に、音も無く静かに消えてしまった。 「~~~っ!」  ひーちゃんにもそれが見えていたのか、無言で、私を包むように腕をまわしてくれた。あくまで、触れないように。……嗚咽が洩れ出した。   *  *  志賀イズ、享年19歳。死んでから3日後、この世に戻ってきました。  私は今、幽霊です。
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