第Ⅰ話

6/10
前へ
/24ページ
次へ
 と、ひーちゃんの後ろで人が立ち止まった。そしてその人は、爽やかな声で挨拶した。 「こんにちはー、佐古さん。……ってあれ、どうしたんです?しゃがんで手を伸ばしたりして。鍵でも落としました?」  私も、ひーちゃんの肩口から顔を出した彼を知っていた。彼はひーちゃんのお隣さんで、匡介(キョウスケ)くんっていう子。ひーちゃんとは年が近いのもあって仲が良くて、お互いの部屋に行く事もあった。だから玄関を覗くぐらいはすると思う。  だけど。  私に気付かないのはおかしい。だって私は、ひーちゃんにくっついて匡介くんの家に行ったこともあるのだから。  すると、ひーちゃんもおかしいということに気付いたらしくて、 「匡ちゃん、俺今コンタクトしてへんのや。鍵、どっかに落ちとるか?」 と嘘を言って。そして、匡介くんが玄関の床の上に座り込んだままの私の方を見た。  でも。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加