第Ⅰ話

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「……だから俺の見てる幻では、無いん、よな?」  少しして告げられた言葉に、私ははっとして頭を上げた。  視線が、ひーちゃんのそれと交差した。確かに。  そう、私が、今、ここに、ひーちゃんの前に、いるということ。これは本当のこと。現実のこと。だから私は、ちょっと笑って言えた。 「うん。私は私。ひーちゃんの幻なんかじゃなく、死んでるけど、何でか他の人には見えないみたいだけど、確かに志賀イズだよ。貴方の彼女だった、イズだ」 「過去形にするなや!」  ひーちゃんが私の言葉を遮って、叫んだ。私がその剣幕に気圧されてびくっとすると、それを見たひーちゃんは気まずそうな顔をして、私に言い聞かせるようにゆっくり言った。 「イズは、イズやろ?今ここにいるのは、間違いなくイズなんやろ?それならお前は、俺の好きな女の子や。恋人や。過去形やあらへん。死んだってイズを好きな気持ちは変わらへんかった。だから今も、俺の彼女なんや、イズは」 「……ひーちゃん」  ヤバい、泣きそうだ。泣いたら涙は玄関を濡らすかな。さっきドアに当たったくらいだから。  私がそんなことを考えている間に、ひーちゃんは床に膝をついていた。そしてまだしりもちをついたままだった私に、さっきとは違って、両腕が差し伸べられる。だから私も、そうした。
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