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「……だから俺の見てる幻では、無いん、よな?」
少しして告げられた言葉に、私ははっとして頭を上げた。
視線が、ひーちゃんのそれと交差した。確かに。
そう、私が、今、ここに、ひーちゃんの前に、いるということ。これは本当のこと。現実のこと。だから私は、ちょっと笑って言えた。
「うん。私は私。ひーちゃんの幻なんかじゃなく、死んでるけど、何でか他の人には見えないみたいだけど、確かに志賀イズだよ。貴方の彼女だった、イズだ」
「過去形にするなや!」
ひーちゃんが私の言葉を遮って、叫んだ。私がその剣幕に気圧されてびくっとすると、それを見たひーちゃんは気まずそうな顔をして、私に言い聞かせるようにゆっくり言った。
「イズは、イズやろ?今ここにいるのは、間違いなくイズなんやろ?それならお前は、俺の好きな女の子や。恋人や。過去形やあらへん。死んだってイズを好きな気持ちは変わらへんかった。だから今も、俺の彼女なんや、イズは」
「……ひーちゃん」
ヤバい、泣きそうだ。泣いたら涙は玄関を濡らすかな。さっきドアに当たったくらいだから。
私がそんなことを考えている間に、ひーちゃんは床に膝をついていた。そしてまだしりもちをついたままだった私に、さっきとは違って、両腕が差し伸べられる。だから私も、そうした。
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