第Ⅰ話

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 抱き締め、抱き締められると。目を閉じながら、そう思った。  だけど。 「「……え?」」  すっと、体が前に行き過ぎた気がして目を開けると、私はひーちゃんの体を突き抜けていた。いや、むしろひーちゃんが私の体を通り抜けていたと言うべきかな。  パッと後ろに下がった。反射的に。 「や、やだ。どうして、だってさっきドアに、え、そりゃ痛くはなかったけど、確かに当たって……」 「……イズ、もう一回ドアに当たってみい」  混乱し始めた私に、ひーちゃんは冷静に指示を出した。だからおろおろしながらも、私の正面から少し左にずれたひーちゃんの右に、触れないように注意しながら、私は体を割り込ませた。  当たったら痛いという生きていた時の常識が邪魔をして強く当たることは出来なかったから、ゆっくりと腕を出しただけになってしまったけど。  金属が指に当たる時の固い感触を、知らず知らずの内に意識していた。  だけどその予想を裏切って、私の手は空を切った。  ……ううん、もしかしたら空気に触ることさえも、私がこの世のひーちゃんの家の前にいると思った時からしていなかったのかもしれない。さっきのも、咄嗟のことに私の体が勝手に、生きていて体がある状態だったらしていただろう動きを取っただけなのかもかもしれない。  ――突きだしたはずの私の腕は、途中から指の先までが、ドアに遮られて、見えなかった。
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