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その後も明日香によるバスケ部の説明は続いたが、千草の頭には入って来なかった。
ヤドカリと木村と呼ばれた子のこと。頭はそのことでいっぱいだった。よく考えれば気づくこと。しかし、最近の千草はヤドカリと話すことで頭がいっぱいであったために考えてすらいなかった。ヤドカリが約束を忘れたという可能性を……。
「どうも。木村梓です。気軽にウサギって呼んでください。あ、寂しいと死んじゃうんで友達いっぱい欲しいです」
意識を周りに戻すと自己紹介が始まっていた。しかも先ほどの木村という子の。千草はどうしても早くこのうやむやを解消したかった。このウサギとヤドカリの関係を――。
「ウサギちゃん!」
気づけば体は自然と動いている。自己紹介の終わったウサギの元へと歩みは止まらない。
「ん? 何かな? ま、まさか! 早速友達?! よろしくねー」
ウサギは自分勝手に話を進めるが千草はその流れに流されない。
「ウサギちゃんって彼氏いるの?」
自然と口をつく言葉。単刀直入過ぎたとも思うが、今そんなことを気にしている場合ではなかった。三年の思いがここで消えてしまうかもしれない。答えがどうであれ、今はそれを知る必要があった。
ウサギは戸惑いを隠しきれない様子。それもそうである。初対面の人にいきなり彼氏いる? とか尋ねられれば戸惑うのも当然である。
ウサギは数秒キョロキョロと落ち着きのない様子を見せたあとポツリと一つこう答えた。
「――ひ・み・つ」
ウサギが残した言葉に千草は反応さえできなかった。
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