キツネとタヌキ

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光華高校に春の終わりを告げる暑さが訪れる。梅雨を前にしてここ最近は暑い日が続く。これも温暖化のせいなのであろうか。でもこの暑さの中でも高校の周りを自然眺めていれば自然と暑さも和(やわ)らぐ。 サイが退院して一ヶ月が経とうとしていた五月の終わり。サイが退院して以後ウサギとサイは付き合っているようであった。ウサギの話を聞く限り部活が休みの日はサイと出かけたりもするそうだ。その話を聞いた沙織は嬉しかった。回り道を繰り返した末にようやく二人が自ら同じ道を見つけることができたのだから。 沙織もその件に関しては純粋に嬉しいのだが、悩みがあった。ヤドカリとのこと。ヤドカリとは遠足の日に想うようになった。その後もサイとウサギのことで衝突もしたが、無事に仲直りもしたし衝突したことでより一層ヤドカリのことを考えるようになった。 しかし、そのヤドカリとも最近は何もない。いや何かを期待する方がおかしいことくらいわかる。でも、本当に何もないのだ。最近のヤドカリは部活に集中しているようだし、遠足が終わったため話す話題も特にない。そのためほとんど話をしていなかった。 これはどうにかしなければならない事態である。そうは考えてはいるがなかなか具体的な打開策が浮かばない。最終手段ならあるのだが、なるべくそれは使いたくはなかった。なんせ最終手段なのだから。 「沙織~、部活行こう!」 いきなり聞こえた声に驚く沙織。周りを見渡すと教室にはいつの間にか生徒が少なくなっている。その風景にようやく放課後を感じた。部活の友達は「早く、早くー」と沙織を急かす。沙織はまた悩みを解決できないまま部活に向かうこととなった。
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