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沙織はチア部に所属していた。そのチア部は普段多目的ホールなどで活動をしているのだが、今日は体育館が空いていたために体育館で活動することになっていた。一年生にとって初めての体育館での練習。他の一年生と同様に沙織もまた期待に胸躍らせていた。
着替えを済ませて体育館に入る。体育館には体育の時に入ったことがあったが体育の時とは全く違う空気がそこには流れていた。授業の時とは違う緊張感のある空間。生徒たち一人一人が部活に対して真面目に取り組んで作り出される緊張感。その緊張感は誰にも壊すことはできない。それほど体育館全体に緊張の糸が張り詰められていた。その様子を肌で感じた沙織も気を引き締める。
「チア部の人集合してー!」
チア部の部長の声が舞台から体育館全体に響き渡る。その声に沙織たちチア部は舞台へと移動した。その移動の最中、別の場所から怒号が轟く。
「お前ら! 部活中に話してるんじゃねえ! 瀬戸! お前は早く男子の方へ戻れ!」
沙織はこの低い声を聞き男の声だと思ったが、声が聞こえた方に自然と目をやると声の主は女性。しかし、そんなことはどうでもよかった。今はただその声の主が瀬戸と言ったことに気になっていた。
「す、すいません! すぐ戻ります!」
怒鳴られたことでヤドカリの声も自然と大きくなる。周りでその様子を見ていたバスケ部の面々はクスクスと笑っていた。そして同じようにヤドカリが話していた相手も謝る。
「すいません、貴弘が話しかけてきたもので……」
「人に責任をなすりつけるな! いいか、部活中は――」
部長らしき上級生はヤドカリが話していた相手に説教を始めた。沙織は目が点になる。その理由は説教ではなくヤドカリのことを『貴弘』と呼ぶ女子を見たからだった。
気になるのはヤドカリとその女子の関係。沙織にはまた悩みの種が増えることとなったのだ。
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