キツネとタヌキ

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――ガラッ 更衣室のドアを開ける。もちろんそこは男子禁制、男子からしたら楽園なのであるが、そんなことはさておき。更衣室のドアを開けて沙織の目に最初に入ってきたもの、それは先ほどヤドカリと仲良く話していた女子だった。これはラッキー。千載一遇のチャンス。そう思って初対面でも恐れることもなく声をかける。 「あの~先ほど~、ヤドカリと話してましたよね~?」 お得意のぶりっ子声で探りを入れる沙織。それに対して相手は表情を全く変えずに答えた。 「ヤドカリ……? あ、あぁ、貴弘のことかー。貴弘と話してちゃまずいのかな?」 相手はなぜか上から目線。しかも外見は大人しそうな感じなのに実際話してみると口調はおっとりしているものの喧嘩腰なのはわかった。 「ヤ、ヤドカリとはどういった関係なんですかぁ~?」 沙織も平静を保とうとするもののやはり言葉に焦りが生まれる。その態度に気づいたのか相手は少し表情を変えた。驚いた様子を見せてこう言った。 「あ、もしかして一年生? ため口でいいよー。ウチも一年生だからー。ウチは畑山千草」 これには沙織も驚く。雰囲気といい上から目線といい上級生だと思っていたからだ。その様子を知ってか知らずかさらに千草は続ける。 「というか何? アナタこそ貴弘の何なのかなー?」 先ほどの自己紹介とは打って変わって千草は沙織に牙を向ける。それは表現だけでなく実際も千草のその細い目つきで沙織に刃を向けていた。一方の沙織もそれに退くことなく対峙する。 「“アナタ”って呼ぶのムカつくから止めてくれないかなぁ~? それに沙織はね、先に畑山とヤドカリの関係について聞いたんだからアンタが先に答えるべきでしょ~?」 牙を向ける千草に威嚇する沙織。この両者の間に熱い火花が飛び散っていた。 それが故に二人には周りが見えていなかった。周りの女子たちは対峙する二人にざわついている。陽子もおろおろして周りとどうしようかと相談していた。周りに気づかない二人はさらに続ける。 「ちょっと、山寺だってアンタって呼んでるじゃなーい。貴弘との関係? いいよ、そこまで言うならウチの口から言ってあげるわよー」 「――え?」 「貴弘とウチは――」 「そこまでだ!」 続きの言葉を発しようとした千草に低音ボイスが待ったをかける。そう、待ったをかけたのはバスケ部、部長の明日香であった。
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