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二人が出会って恋のライバルと認めた翌日のこと。
サイは同じ中学出身で同じ光華高校の関野虎鉄ことトラと一緒に登校していた。
最寄り駅から光華高校までは田舎道となっている。車はほとんど通らず、通るのは光華高校の生徒と地元民だけ。駅から離れれば離れるほど景色が東京を疑うものに変わる。その田舎道を歩きながらトラが話し始めた。
「サイ、どうなん?」
「ん? 何が?」
いきなり「どうなん?」と聞かれてもサイにはトラの言いたいことがわからない。
「とぼけんでええって。彼女とのことや」
「あぁー……うふふ」
「うわっ、お前いかにも幸せ噛みしめてますちゅー顔しとるで。ちょっとそれが腹立たしい」
「あ、すまん。でも彼女とはいい感じ……やでぇー」
「アホ! 関西弁パクるなよ!」
「……でも、一つだけ悩みがあるんだよ――」
そういうとサイは俯いてしまった。その尋常ではない様子にトラはかける言葉を失ってしまう。
その後は会話がないまま二人は学校に到着。サイはE組でトラはB組だ。二人は別れを告げそれぞれの教室へ向かった。
「おっはよー!」
サイがE組の教室のドアを開けるとウサギの挨拶が響く。これはもちろんサイに向けられたものである。
サイは遠足後にウサギに告白して以来ウサギと付き合っている。告白まで一筋縄ではいかなかった。しかし、今はこうして二人は幸せな道を歩むことができた。それは素直に嬉しい。
でも、サイには悩みがあった。その悩みのことを考え始めるとウサギに元気よく挨拶なんてできない。それでもウサギにはその悩みを悟られたくなかった。悩みはできればサイ一人で解決せねばいけないのだ。だから精一杯に元気な声で挨拶を返す。
「おっはーよ!!」
「さ、サイ? 大丈夫?!」
――え? もうバレた?
「伸ばすとこおかしいよ。はっ!? もしかしてそれは私に対する挑戦状?! ややっ、ちょいと待っててよ! 今いいやつ繰り出すからさ!」
レベルアップして覚えた技を使うがごとく言い放つウサギ。ウサギは何を勘違いしたのかブツブツと一人の世界に入ってしまった。
サイはその様子に安心した。ウサギはいつも通り、ウサギなんだなー、と。
さっきまで深く考えていた悩みも吹き飛ばしてくれる、その明るさ。それがサイを楽にしてくれる。おかげで一時的ではあるものの悩みを消すことができた。
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