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「おい、ヤドカリ! ヤドカリ! 起きろって!」
サイこと斉藤勝信は教室中に響くほど大きな声を張り上げる。机に突っ伏しているヤドカリを起こすためだ。教室にはサイとヤドカリ以外もう誰もいない。
「……ん?」
ヤドカリと呼ばれた彼、瀬戸貴弘。彼が今回の主人公である。なんでも頭がヤドカリの巻き貝に似ているらしくそのあだ名がついたらしいのだが、本人はそのあだ名を気にいっているらしい。
「ん? じゃねぇよ! 次は家庭科室だぞ! 全くいつまで寝てんだよ!」
そう言いながらサイは教室を出る準備をする。準備が終わるとヤドカリに早くするよう急かすが、一方のヤドカリは未だ目が冴えないらしく
「……ん?」
と先ほどと同じ言葉を繰り返す。
「……もう先行くわ」
呆れ返ったサイはヤドカリを教室に残して先に行ってしまった。
「……ん~」
未だに机とスキンシップをはかるヤドカリ。まだ寝ぼけているらしく体は睡眠を求めていた。
キーンコーンカーンコーン。
無情にも授業開始を知らせるチャイムが鳴る。
「……」
「んあぁぁぁー!!」
奇声をあげるヤドカリ。チャイムが体を活性してくれたらしく今自分が置かれている状況をようやく理解した。
「ぁぁぁ…………。――ま、いっか」
こうして優等生ヤドカリは入学以来初めて授業に遅刻をしたのであった。
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