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学校を後にしてすぐに昨日の路地に向かった。何故かと問われても分からない。彼女に会わなければいけない気がした。細い路地は昨日よりも更に細くなっているような気がした。体を無理矢理に捩込み路地に進入した。不法投棄された家電と生ゴミの詰まったビニール袋も昨日より明らかに増えていた。それらを掻き分けながら、蹴散らしながら進んで行く。酷い焦燥感に襲われていた。早く、早くと誰かが頭の奥で囁いていた。 急がなければ…。 次に続く言葉は分からない。しかしひたすら急がなければならない気がしてならなかった。昨日と全く同じように段ボールが箪笥の横に積まれていた。反射的に段ボールを蹴り飛ばした。 その先に、彼女は昨日と同じ白いワンピースに身を包み、昨日と同じように立っていた。目が合うと彼女は慇懃なお辞儀をした。その動作は今まで見てきたお辞儀の中で一番美しいものだった。 「こんにちは」 そう言った笑顔は昨日見た機械的なものではなく心を奪われた、まさに可憐な笑顔だった。その彼女を見た瞬間安堵感で胸が一杯になり、言葉をしばらく失った。 「昨日はありがとう。えへへ、まだふわふわだよ。ふわふわ」 彼女は嬉々として手の中で髪を弾ませた。 「よく似合ってるよ」 「えへへ、ありがとう」 はにかんだその笑顔はどんなアイドルにも劣りはしないと思った。不意に彼女は、「あっ」と声を上げて表情を曇らせた。 「もしかしてお金?」 「いやそんなつもりじゃないよ。たまたまさ」 「たまたまって…その割には凄い汗だくだね」 汗で濡れたワイシャツを指差しながら彼女は微笑んだ。 「今日、暑いだろ?」 彼女は何かを考えこむかのように押し黙った。 「そっか」 途端につまらなそうになった彼女は呟いた。 「どうかした?」 彼女はの顔からは、あらゆる感情が死んでしまったようだった。能面のようなその顔から感情が読み取れないのではない。 完全に感情が消失していた。 まるで機械のように、昨日の笑顔のように。 「私と、しに来たの?」 「違う!」
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