13/18
前へ
/111ページ
次へ
私のことみたいな。 一呼吸置いて彼女は静かに付け加えた。知らなくていいこと、知る由もないことがこの世の中には、たくさんある。本来、彼女が言う通り、彼女のこともそれらの部類に入るのだろう。 でも。 「いや。教えて欲しい。もっと知りたい」 彼女は訝るような視線をぶつけてきた。 「どうして?何が目的なの?」 彼女が少し苛立っているように見えるのは、間違えではない。彼女の気持ちはよく分かる。自分がどうしてここまで彼女に執着するのか、自分でも分からないのだから、彼女の疑問は当然のことだ。 ―当たり前だ。お前は、知らなくてはいけない。お前は逃げてきたがな、義務なんだよ。お前の業なんだ。 また、頭に響いた。先程より明確に明瞭な響きに変わっていた。体の奥が痛いほど熱い。額に汗をかいていた。 「大丈夫?」 彼女が今度は心配そうな顔をした。 「ちょっとあついかな」 「エアコン、動いてるけど?設定温度18度で」 エアコンの低くて鈍い音が聞こえる。 「何でなんだろう。凄くあついんだ」 針みたいだった。鋭利な刺すような熱さが溢れてくる。正直、苦しかった。不意に彼女が立ち上がりベッドを降りた。 「どこへ?」 尋ねると彼女は答えた。 「今日はおしまい。これ以上私が居ると、君がダメになっちゃう。大丈夫。逃げたりしないから。明日もあの場所にいるから」 安心しなさい、と笑顔の彼女がずいぶん年上に見えた。 「じゃあ、お大事に、ね?」 待て、と彼女を呼び止めようとしたが、喉がひどく渇いていて上手く声が出なかった。彼女の小さな頼りない背中が、消えていくのを見送ることしか出来なかった。ただ焦燥感は、なかった。彼女の言葉は多分、嘘じゃない。確信めいたものがあった。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加