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けたたましい笑い声が響いている。耳障りに感じるが、どこか心地良い。机に伏している自分の気持ちが高揚するのがわかる。聞こえてくるのは、芸能人のゴシップや卑猥な冗談、誰かの噂話。興味があろうとなかろうと耳に入ってくる情報に心の中で笑ったり、驚いたりしながらなんとなく対応していた。
「How match I?」
耳元でやけに低い声が聞こえた。
「あん?」
不躾な返事を返した。
「How match I?」
顔を上げるとにやにやとしたいやらしい笑みを浮かべた友人が居た。
「何なんだよ?」
「知らないの?」
友人は心底意外そうな顔をした。
「意味が分からない」
「あれだよ。今、男連中はこの話で持ち切りだぜ。『How match I?』女」
「私はいくらですか?女?」
「正確には私はいくらですか?って言う女。金出せばヤラセてくれるらしいぜ。毎日、K街の何処かに出るらしいんだ。それに超可愛くて、超エロいらしいんだ。しかも超上手いらしいんだ」
K街。
浮浪者と暴力団の下っ端、娼婦と不法滞在の外国人で溢れる街。
物欲と貧困と暴力の街。
そんなK街の治安の悪さから考えれば珍しくもないありふれた話だった。
「君は相変わらず馬鹿だなぁ」
あまりにらしいの多い話に悪態をついた。
「ふん。貴様のようなモテ男に俺の気持ちは分からないだろうな」
「別にモテねぇよ」
「黙れ。昨日だって一組の弘美ちゃんと一緒に帰ってただろう?」
「たまたま会ったからご飯食べただけだ」
「それがモテるって言うんだよ。俺がたまたま会ったとしても、ご飯を食べるなんてことに発展することはないんだよ!」
くそ~羨ましいぜ、と友人は髪を掻きむしった。
「あっははは」
わざとらしく声を出して笑う。
「くそ~俺は絶対にハウマッチ女に会って自慢してやるからな」
友人はそう捨て台詞を残して去って行った。
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