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狭い路地には冷蔵庫や洗濯機などの不法投棄物が陳列されるように並べられており、余計に狭くなっていた。加えて生ゴミが入っていると思われるビニール袋が無数に捨てられており、なんとも言えない悪臭を放っていた。悪臭に堪えながら、体をくねらせながらなんとか進んで行く。
「私は……く………で…か…」
その間声は断続的に聞こえ、路地の奥へ行けば行くほど明瞭に聞こえるようになっていた。
積み上げられた段ボールと捨てられた箪笥が完全に道を塞いでいる。その段ボールを蹴飛ばす。するとその向こう側で、何かが動く気配がした。倒れた段ボールの先に女性の姿が見えた。暗い中でもはっきりと分かる真っ白なワンピースを着ている小柄な女だ。腰まで届きそうな深い黒色の髪が揺れ、彼女と目線が合った。彼女の小さな瞳に捉えられた。
その瞬間、何故か生きた心地がしなかった。
彼女は目尻を下げ、まばゆいほどの白い歯を覗かせている。つまり彼女は笑っているのだ。
だが笑っているようには見えない。おおよそ人の笑顔ではない。
無感情に、機械的に、まるで誰かに操られているようにその部分を動かしているようだ。ゆっくりと彼女の唇が動いた。
「私はいくらですか? 」
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