約束は

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どれほど打ち合ったのだろうかーー どのくらいの時間が経ったのだろうかーー 最早わからなくなっていたが、 怜はただ楽しかった。 試合というものは初めてやったが、 それがこんなに楽しいことだとは思わなかった。 今まで強い相手とも闘ったことがあるがそれとは比べ物にならないくらい楽しい。 一回打ち合うごとに、心が高揚する。血がざわめく。 試合が終わって欲しくない、そんなことを思い始めている自分がいる。 「……楽しいな」 怜の耳にそんな言葉が届く。 独り言のような小さな呟きだったので、聞き取ったのは怜だけだ。 「……僕も楽しい」 怜の声は抑揚のない口調ではなく優しく、穏やかな響きがあった。 顔は無表情のままだったが機械的な冷たさはなくなっていた。 ミシリ…… ああ、試合の終わりが刻々と近づいてきている。 ガンッ! ミシミシッ! 打ち合うごとに木刀が悲鳴をあげる。 激しい攻防で、両者の木刀には無数のヒビが走っていた。 ーーもう、もちそうない……。 ならば最後はーー 「沖田さん!」 「怜!」 二人とも同時に言う。 思わずお互いの顔を見合わせてニヤリとする。 どうやら考えていたことは同じらしい。 ダンッ 同時に後ろに跳んで距離をとる。 †
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