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怜は、木刀をゆっくりと下ろした。
ーー初めて負けた……
負けることがこんなに悔しいものだとは知らなかった。
でも、それ以上にーー
怜は、振り向いて沖田を見た。
彼は全身汗だくだで、疲労もしているように見えたが、その瞳は子供のように生き生きして楽しそうにだ。
怜は、沖田に近づく。
平隊士に貰った手拭いで、汗を拭っていた沖田は気づいてこちらを見た。
「怜さん……」
怜はにこり、と笑む。
作った笑顔ではなく本当の笑顔でーー
「沖田さん。
負けたのは悔しいですけど僕、こんなに楽しかった時はなかったです。
ありがとうございました✨」
怜は、ぺこりと沖田に頭を下げる。
負けたことは悔しいーーだけどそれ以上に楽しかった。
ーーまた、沖田さんと試合をしたいーー
「そ、そんなっ!頭をあげてください💦
お礼をいいたいのは私のほうです❗
あんなに楽しい試合は生まれて初めてでしたし……」
頭上から、沖田の慌てた声が聞こえる。
怜は気づかれ程度にクスリッと笑い、頭を上げた。
「また試合をしてくれませんか?」
怜がそう言うと、沖田は目を輝かせてブンブンと首を縦に振る。
†
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