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わずか、わずか呼吸一つ二つ、それだけの時間だった。
一瞬にも満たないその間に……
自分を囲んでいた筈の男達を全員――殺した。
返り血を一滴もあびることなく……
それはもう強いとかという話ではなく“化け物”という他なかった。
怜はとナイフに付いた血糊を近くに倒れている死体の服で適当に拭う。
「――化け物かぁ。
確かにそうかもね」
ぽつりと呟いた怜の声が静かに響いた。
「誰も僕をわかってくれる人なんていないんだろうな……」
その言葉は、本当に寂しげで今にも泣き出しそうな雰囲気がある。
だが、ふるふると首を横に振ると、両頬をパンッと少し強めに叩いた。
――弱音を吐くな。
僕は一匹狼。
僕は仲間もいらない。
誰も信じない。
どうせ、信じても裏切られるだけ……。
疎まれるか利用され、捨てられるだけ。
信じるのは己だけでいい――
怜は、呪文のように何度も何度も呟いた。
自分を支え続けてくれた魔法の言葉を――
これを呟くだけで、寂しいという感情が消え去っていくような気がした。
†
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