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「………………」
そして土方は、俯き無言で黙っていた。
いつもの土方ならば、とっくの昔に怒鳴り散らしていてもおかしくないのだが……。
これはこれで、いつも以上に怖さが増し怜は早くこの場から逃げ去りたくなってきた。
だが、沖田はニコニコと満面の笑みの中に黒さも滲ませながら怜を見ていて、
土方も俯いているのにも関わらず全く隙がない。
そのため怜はなかなか逃げる機会を見つけることができなかった。
しかし、土方の腰にある刀の刀身が、鯉口を切った時より出ているように感じるのは怜の気のせいなのだろうか。
それより、シャーという金属の擦れる音と共に、刀が段々と抜かれているように見えるのは目と耳の錯覚なのだろうか……。
太陽の光を受けて鋭く輝く銀の刃。
その刀は普段なら美しく感じられただろう……。
だが、今の怜には死神の鎌にしか見えなかった。
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