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「うるせえぞ」
顔をしかめてウルリカを見る。
「だだだだだって!!」
ウルリカには珍しく、顔が赤い。
「重いよ!先生、潰れるよ!!?」
「潰れるわけねえだろ」
少し苦笑を浮かべた。
「どっちかって言うと、軽すぎる方だろ」
そう言って歩き出した。
「………」
ウルリカは真っ赤になりながらも、落ちないようにトニの服を少しだけ掴んだ。
それを可笑しそうに…また、愛おしそうに見下ろした。
ウルリカのアトリエ前に着くと、クロエがいた。
「………何してるの?」
睨むようにトニを見る。
「ちょっと…」
ウルリカは恥ずかしそうにトニから下ろしてもらった。
「じゃあな」
トニには珍しく、優しげに微笑み、ウルリカの頭を撫でた。
「っっっ!!」
ボンッ!
ウルリカの顔から湯気が上がり、急いでアトリエに入っていった。
その後を追うように、クロエが入る。
トニを睨みながら…。
「クロエ~私、変だよお」
トニと別れて、アトリエの釜の前に座っているウルリカがいた。
その顔はまだ赤い。
「…素からじゃない」
さらりと酷いことを言う。
「違うよ!…何かね、トニ先生のことを考えると、熱くなるって言うか…」
「それって…」
クロエは分かったらしいが、何故か顔をしかめた。
「こんなこと今までなかったのに…」
それは些細な切っ掛け…。
まだそれが『恋』だと知らない少女の苦悩は始まったばかり…。
→end
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